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東京高等裁判所 平成9年(ネ)2265号 判決 1998年10月01日

千葉県市川市東菅野一丁目二六番六号

控訴人

株式会社バロン

右代表者代表取締役

安達和信

右訴訟代理人弁護士

小野瀬芳男

右補佐人弁理士

伊藤捷雄

栃木県小山市大字白鳥一二五〇番地四

被控訴人

株式会社スイフ産業

右代表者代表取締役

前島清子

右訴訟代理人弁護士

渡邉惇

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人は、控訴人に対し、金三五二〇万円及びこれに対する平成五年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  請求の原因

請求の原因は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決摘示の事実及び理由の第二 請求の原因のとおりであるから、これを引用する。

一  「「オックス」」とあるのをすべて「控訴人商品」と、「「ベストフレンド」」とあるのをすべて「被控訴人商品」とそれぞれ改める。

二  一丁裏一〇行から二丁裏四行までを次のとおり改める。

「一 控訴人は、平成二年一二月ころから、本判決別紙物件目録一記載の精子採取器である控訴人商品を製造販売している。

二1 (選択的主張1)

控訴人商品のシュリンク包装をした状態である本判決別紙物件目録一の1ないし3記載の形態は、遅くとも平成四年一二月ころまでには、控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されるようになっていた。

2 (選択的主張2)

控訴人商品のシュリンク包装を解いた状態である本判決別紙物件目録一の4ないし8記載の形態は、遅くとも平成四年一二月ころまでには、控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されるようになっていた。

三  被控訴人の製造販売する商品である被控訴人商品は、本判決別紙物件目録二記載のとおりである。

四  被控訴人は、被控訴人商品を製造販売して、控訴人の前記二1(選択的主張1)又は同2(選択的主張2)の商品等表示と同一若しくは類似の商品等表示を使用し、控訴人商品と混同を生じさせた。したがって、被控訴人の右被控訴人商品の製造販売は、不正競争防止法二条一項一号又は平成五年法律第四七号による改正前の不正競争防止法一条一項一号に該当する。

被控訴人商品に使用された商品等表示が控訴人の商品等表示と同一若しくは類似である理由は、次のとおりである。」

三  三丁裏九行から四丁表一行までを削り、四丁表二行目の「被告は、」の前に「五」を付加する。

第三  請求の原因に対する被告の認否及び反論

請求の原因に対する被告の認否及び反論は、次に訂正するほかは、原判決摘示の事実及び理由の第三 請求の原因に対する被告の認否及び反論のとおりであるから、これを引用する。

「「オックス」」とあるのをすべて「控訴人商品」と、四丁裏四行目、五丁表七行目、五丁裏一〇行目、七丁表三行目から四行目、同五行目、同七行目の各「「ベストフレンド」」を「被控訴人商品」と、四丁裏二行目の「別紙図面」を「本判決別紙物件目録一記載」とそれぞれ改める。

第四  当裁判所の判断

一  控訴人が、平成二年一二月ころから、控訴人商品を製造販売していることは、当事者間に争いがない。

二  控訴人の選択的主張1について判断する。

1  控訴人の主張によれば、控訴人商品と被控訴人商品は、軸方向に長い略切頭逆円錐台形状であり、全体の大きさはその高さが一二〇ミリメートル、口径は大きいほうが八六ミリメートル、小さいほうが五一ミリメートルである点で一致している。しかしながら、控訴人商品は、ピンク色の下地に花の絵が描かれ、「OX」と「オックス」という商標が印刷されており、更に、蓋体には、中心部に女性の名前がローマ字で記載され、周辺部にはローマ字で「OX」が連記されているのに対して、被控訴人商品は、海をイメージした濃い色のブルーと、空をイメージした薄い色のブルーからなるツートンカラーの地に、島と椰子の木と雲と鳥とともに「BEST FRIEND」という商標が描かれ、後ろ側には、小山をイメージした濃い色のブルーと、夜空をイメージした薄い色のブルーからなるツートンカテーの地に、家と星と三日月とが「BEST FRIEND」という商標とともに描かれており、更に、蓋体には、「ベストフレンド」という片仮名の商標とともに、使用方法の説明文を印刷した丸い不透明のラベルが貼られているという相違点があることも、控訴人の主張自体から明らかである。

2  そこで、右一致点及び相違点の存在を前提として、控訴人商品のシュリンク包装をした状態である本判決別紙物件目録一の1ないし3記載の商品等表示と、被控訴人商品に使用されている商品等表示とが同一若しくは類似であるか否かについて検討する。

控訴人商品と被控訴人商品との右一致点は、ありふれた容器の形状にすぎないものというべきである。そうすると、控訴人商品と被控訴人商品は、商品の外見上認識される色彩、図柄及び商標の表示が全く異なっているのであるから、被控訴人商品が控訴人商品のシュリンク包装をした状態である別紙物件目録記載一の1ないし3記載の商品等表示と同一若しくは類似の商品等表示を使用しているということは到底できない。

3  もっとも、控訴人は、控訴人商品は、その使用目的が商品の形態とアンバランスに結合した特異な商品として周知されているものであり、その形態こそが控訴人商品の生命線であり、包装表示等と商品との結びつきは希薄であると主張する。しかし、控訴人は、選択的主張1においては、控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されていたものは、控訴人商品のシユリング包装をした状態である本判決別紙物件目録記載一の1ないし3記載の形態であると主張するのであるから、右形態には、控訴人商品の形状のみならず、本判決別紙物件目録記載一の1ないし3において認識される色彩、図柄及び商標の表示等、すなわち、控訴人商品のシュリンク包装をした状態において外見上認識される色彩、図柄及び商標の表示等も当然含まれているものである(なお、控訴人商品のシュリンク包装が解かれ、色彩、図柄及び商標の表示等がなくなった状態の形態が控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されていたと認めるに足りる証拠がないことは、後記三の認定のとおりである。)。そして、商品の外見上認識される色彩、図柄及び商標の表示は、需要者が商品を購入する際に商品の出所を識別するための非常に重要な要素であることは明らかであるから、その点が全く異なる被控訴人商品が、本判決別紙物件目録記載一の1ないし3記載の商品等表示と同一若しくは類似しているということは到底できないのである。被控訴人商品に被控訴人の名称が表示されていないとしても、そのことは、右認定を左右するに足りるものではない。

したがって、控訴人の主張は採用することができない。

三  次いで、控訴人選択的主張2について判断する。

控訴人は、控訴人商品のシュリンク包装を解いた状態である本判決別紙物件目録一の4ないし8記載の形態が、遅くとも平成四年一二月ころまでには、控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されるようになっていたと主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はない。

すなわち、甲第一九号証及び原審における控訴人代表者本人尋問の結果によれば、遅くとも平成四年一二月ころまでには、控訴人商品に関する宣伝及び紹介の記事が雑誌等に多数掲載されたものの、それらはいずれも「オックス」の商標及びシュリンク包装をした状態における色彩、図柄及び商標の表示とともに宣伝及び紹介されたものであることが認められる。そして、控訴人商品がシュリンク包装を解いた状態で販売されていると認めるに足りる証拠はないから、需要者は、控訴人商品をシュリンク包装をした状態において購入するものであって、シュリンク包装を解いた状態を認識した上で購入するものではないと推認される。したがって、甲第一九号証及び原審における控訴人代表者本人尋問の結果によっても、控訴人商品のシュリンク包装を解いた状態の形態が控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されるようになっていたと認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

第五  結論

以上の事実によれば、控訴人の本訴請求は、その余について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。よって、本件控訴は、理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日・平成一〇年九月一〇日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

物件目録一(控訴人商品)

添付した図面及び写真と左記説明文によって特定される外観形態を有する商品名を「OX」あるいは「オックス」と称する男性用自慰具

<1> 全体的形状として、軸方向に長い略切頭逆円錐形状の筒状を呈した乳白色の発泡スチロール製のケース本体の上部開放部に不透明の合成樹脂製で周辺部にリング状の隆起部を設けた浅皿状の蓋体を被せ、両者を合成樹脂製フィルムでシュリンク包装することによりケース本体の外形がそのままの形で表現される形状である。

<2> 全体の大きさはその高さが二一〇ミリメートル、口径は大きいほうが八六ミリメートル、小さいほうが五一ミリメートルである。

<3> ケース本体内部には中心部軸方向に陰茎挿入部を設けた発泡ウレタン製の充填部が収容固定されると共に、この充填部材の上部と蓋体との間には袋入りゼリーが収容されている。

<4> 蓋体には、中心部に女性の名前をローマ字で記載してあり(例えば、YASUYO等の名)、周辺部にはローマ字で「OX」が連記されている。

と共に、シュリンク包装用の合成樹脂製フィルムには、ピンク色の下地に花の絵が描かれて、「OX」と「オックス」という商標が印刷されている。

<5> 使用時に、シュリンク包装を破って蓋体を取り、袋入りゼリーを取り去ると、表面にはなにも印刷されていない乳白色のケース本体と、このケース本体内に収容されているピンク色の発泡ウレタン製の充填部材を陰茎挿入部の中心部に向けて設けられた複数の突起部を有する入り口と共に見ることができる。

1. 控訴人商品である、商品名「オックス」の正面写真。

ただしシュリンク包装紙でフタをした状態。

<省略>

2. 控訴人商品の平面写真。

<省略>

3 控訴人商品の斜面写真。

<省略>

4 シュリンク包装した状態の正面図

<省略>

5 シュリンク包装を解いて蓋体を外した状態の一部断面分解正面図

<省略>

6 蓋体を外してゼリー入りの袋を取り出した状態の平面図

<省略>

7 シュリンク包装を解いた正面写真

<省略>

8 シュリンク包装を解いて蓋体を取り外して見た平面写真

<省略>

物件目録二(被控訴人商品)

添付した図面と左記説明文によって特定される外観形態を有する商品名を「BEST FRIEND」あるいは「ベストフレンド」と称する男性用自慰具。

<1> 全体的形状として、軸方向に長い略切頭逆円錐形状の筒状を呈した乳白色の発泡スチロール製のケース本体の上部開放部に、透明の合成樹脂製で周辺部にリング状の隆起部を設けた浅皿状の蓋体を被せ、両者の全体を合成樹脂製フイルムでシュリンク包装することによりケース本体の外形がその形のまま表現される形状である。

<2> 全体の大きさはその高さが一二〇ミリメートル、口径は大きい方が八六ミリメートル、小さい方が五一ミリメートルである。

<3> ケース本体内部には中心部軸方向に陰茎挿入部を設けた発泡ウレタン製の充填部材が収容固定されると共に、この充填部材の陰茎挿入部内部にはゼリーが塗布されている。

<4> 蓋体には「ベストフレンド」という片仮名の商標と共に、使用方法の説明文を印刷した丸い不透明のラベルが貼られると共に、シュリンク包装用の合成樹脂製フィルムの前側には、海をイメージした濃い色のブルーと、空をイメージした薄い色のブルーから起るツートンカラーの地に、島と椰子の木と雲と鳥が、「BEST FRIEND」という商標と共に描かれており、後ろ側には、小山をイメージした濃い色のブルーと、夜空をイメージした薄い色のブルーからなるツートンカラーの地に、家と星と三ケ月が、「BEST FRIEND」という商標と共に描かれている。

<5> 使用時にシュリンク包装を破いて蓋体を取り去ると、表面に何も印刷されていない乳白色のケース本体と、このケース本体内に収容固定されている黄色の発泡ウレタン製の充填部材を、陰茎挿入部の中心部に向けて設けられた複数の突起部を有する入口と共に見ることができる。

1. 被控訴人商品である、商品名「ベストフレンド」の正面写真。

<省略>

2. 被控訴人商品の平面写真。

<省略>

3. 被控訴人商品の斜面写真。

<省略>

4 シュリンク包装を解いた状態の正面図

<省略>

5 シュリンク包装を解いて蓋体を外した状態の一部断面分解正面図

<省略>

6 蓋体を外した状態の平面図

<省略>

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